農薬考

 この写真は自家用に栽培している春菊で、農薬は使っていません。今年はめずらしくアブラムシの被害もほとんどなく、とてもきれいな春菊ができました。必要な分だけ採取して鍋料理などで楽しんでいます。

 ところで春菊といえば先日、福岡市で販売された春菊から基準値の180倍の農薬が検出されたとの報道がありました。検出されたのは有機リン系の殺虫剤イソキサチオンだそうです。体重60キロの人がこの春菊をほんの20グラム食べただけでよだれや涙、失禁、嘔吐などの症状が出るということですから、相当な残留量です。同じ農業を営む者として他人事ではありません。なぜこんなことが起こったのか、現在報道されている情報からは正確なところはわかりません。

 有機リン系の農薬は神経や呼吸器に作用する薬剤ですが、販売されているものでイソキサチオンを主成分とする農薬はさほど多くはないと思います。いくつかの報道を総合すると、農家が自家用として栽培していた玉ねぎの農薬が春菊にかかってしまった(あるいは誤ってかけてしまった)ということのようです。十分ありうることではありますが、いくつかの疑問が残ります。

 玉ねぎ用に、ということはおそらく土壌に散布する農薬だったと思われますので、一般的には顆粒や粉状の薬剤になります。粒剤であればこれだけの濃度で葉に残留するというのは考えにくいし、粉剤であれば風で飛んでかかってしまったということはあるかもしれませんが、出荷量からするとかなりの広範囲になるはずですから、意図的に散布しない限りそれもちょっとありえないでしょう。一部の報道には、春菊用の農薬と誤って「希釈した」農薬を散布した、というものもありました。だとすると使用したのは乳剤ということになります。残留量からするとそれが一番妥当かと思われます。

 乳剤は野菜ごとに定められた希釈倍数で薄めて使用します。野菜ごとの希釈倍数は薬剤の袋や容器に書かれていますから、希釈する際にそれを確認していればその時点で間違いに気づいたかもしれません。あくまでも想像ですが、もしこのような経緯で起こったとすると、この農家はまず農薬の種類を間違え、さらに希釈倍数を間違えた、という二重の間違いをおかしたことになります。

 もう一つの疑問点。玉ねぎに使用することのできるイソキサチオンの農薬とは何なのでしょうか。私は寡聞にして知りません。

 全国の農家のためにも、また消費者の信頼回復のためにも、JAくるめは今回の経緯について正確な情報をぜひきちんと公開してもらいたいと思います。

 さて、この事件(?)の話はこれくらいにして、一般論として農薬について考えてみたいと思います。我が農園はこのブログにも書いている通り、ほとんど農薬は使いません。なので商品としての葉物野菜は作りません。農薬を使わずに、販売できる葉物野菜を作ることができないからです。自家用には農薬無しで作りますが、多くは虫食いの穴だらけになってしまいます。自分で食べるのですから気にしませんが、いくら無農薬とうたったところで、こんなものにお金を出して買う人はいません。お店ではきれいな野菜しか売れないのです。

 日本の農薬使用に関する安全基準はかなり厳しく、基準を守っている限り人体には影響はないとされています。使わなければならない以上、作る方も食べる方もその基準を信じるしかありません。しかし「安全な農薬」というのは理論上ありえません。だから基本的に使わないのが一番の安全だというのが我が農園の考えです。

 そもそも、基準にのっとって正しく農薬が使用されているかどうかは実のところ生産者本人にしかわかりません。福岡の一件では販売したお店に「なぜそんなものを販売したのか」という苦情がきているそうですが、小売店では毒物の検査などしませんから(それはすべての商品と同様です)お店には気の毒としか言いようがありません。生産者がJAに出荷する際には普通、生産履歴の提出を求められますが、あくまでも自己申告ですし、生産者が間違いに気づいていない場合には意味をなしません。ときおりJAが抜き打ち検査をしますが、天網恢恢疎にして漏らさずとはなかなかいかないのが現実です。だからこそ生産者は細心の注意を払わなければなりません。これは自戒のことばでもあります。

 先程述べたように我が農園では農薬を使わなければならない葉物野菜は作らず、イモ類や果菜をメインに生産していますが、それでもそれなりに病虫害の影響は受けます。

 今年は主力商品のサトイモに多大な虫害が出ました。コガネムシの幼虫が大発生したのです。数年前にもありましたが、今回は過去最大級の被害になっています。

 

 ご覧の通り、芋が噛じられています。ほんのわずかでも噛じられてしまえば商品価値はなくなってしまいます。掘り出した芋の半分以上が食害にあっていて、本当に涙が出るくらい悔しい思いを毎日味わっています。こんなことなら来年からは農薬を撒いて憎き害虫を皆殺しにしてやろう、という悪魔の囁きについ身を委ねそうになってしまう今日このごろです。